お父さん大好きと言って欲しい

[カッコいいお父さん]「瑠璃~お風呂入ろうか!」「はぁい!」小学二年生。私とお父さんは毎日一緒にお風呂に入っていた。ザパーン!!キャハハと私は笑う。お父さんはかなり太っているのだ。多分100キロはある。そんなお父さんが湯船に浸かった瞬間に溢れ出るお湯の勢いの良さときたらもう最高だった。「瑠璃お父さんだーい好き!」「お父さんも瑠璃だーい好き! お母さんよりも好きぃ!」「あ!そうですか!」お風呂場の向こうからお母さんの声がする。「悪いな母さん!瑠璃が一番好きだー!」「ハイハイどうぞ結婚でもして下さいな!」笑顔の耐えない家庭だった。お父さんがもちろんお母さんもだけど大好きだった。幸せだった。そうあの日までは……

「え~明日は運動会です!みんな! お父さんとお母さんに いいところを見せましょう!」ハァイと手が挙がる。「ええっと…父兄参加の借り物競争には… 瑠璃ちゃんの家はどうだったかな?」「お父さんが出ます!」堂々と答えた。運動会当日。晴天に恵まれそつなく運動会は進んでいく。私は100メートル走で一位をとった。「キャー瑠璃凄い!!」お父さんとお母さんのはしゃぐ顔が見えた。エヘヘ!そして…父兄参加の借り物競争。お父さん…頑張っ…ん?ふと気付いた。周りがざわめいている…

「おい…あの親父誰の親父だよ… 超デブなんだけど…プッ」「あれはねぇよな!おい誰だ! あの親父誰の親父だよっ!」クラスのリーダー格矢島が叫ぶ。え…太ってるのって…恥ずかしい事なんだ…どうしよう…ば!ばれたくない!恥ずかしい…!!!私は真っ赤になって小さくなった。大丈夫…多分…ばれない…何も言わなければばれない!!!「誰だよ~」ギャハハと男子が笑う。消えたかった。パァン!!!ピストルが鳴る。お父さんは…一番後ろを一生懸命に走っていた。「やっぱデブだからビリだぜ~!」矢島が野次る。お父さんは最後に紙切れを拾った。そして…なんと「瑠璃ー!瑠璃!どこだぁ!?」う!嘘!?!?止めて!!来ないで…「瑠璃って…三谷の親父かよ! おいあの親父三谷の親父だってよ!!!」クラスの男子が一斉に笑う。私は涙をこらえるのに必死だった。「瑠璃いたいた!早く早く!」そんな私をお父さんは見つけ手を取り…最後にゴールした…「フゥ。久々に走って疲れたぁ! な!瑠璃…」遠くから聞こえる男子の笑い声…こらえていた涙がボロボロ溢れた…「ど!どうしたんだ瑠璃!?」「なんでもないの…」その日から私は一人でお風呂に入るようになった。

朝食も夕食もお父さんとはあまり口をきけなくなった。バァン!とお母さんが遂にテーブルを叩いた。「瑠璃!いい加減にしなさい! お父さんの何が気に入らないの! あんなに仲が良かったのに! はっきり言いなさい!」私は口をつぐんだ。こども心にお父さんのせいで本当はあれ以来男子に苛められている。だけど優しいお父さんが本当は…大好きで本当は学校に行くのが辛いだけどお父さんを…傷付けたくなかった。

「なんでもないよ… ごめんお父さん… 元気ないだけだよ…」「そ…そうか…お父さん… なんかしちゃったんだったら… ごめんな…またいつもの明るい 瑠璃に…戻ってくれるのを 待ってるよ…」お父さんが私をどれだけ好きか知ってる。だから自分のせいで苛められているなんて絶対に伝えたくなかった。そんなある日のホームルームだった。

「おはようみんな!」先生が挨拶をした瞬間。バァン!!!え…?物凄い音を立てて扉が開いた。そこに立っていたのは…お父さんだった。私はガタンと立ち上がった。見たこともないような物凄い形相でズカズカと教室に入りお父さんは私の胸ぐらを掴んだ。「誰だ…?」こ!怖い…!!!こんな怖いお父さん見たことな…「お前を誰が苛めているんだと 聞いてるんだよ!!!」「ヒィ!!」教室が静まり返る…「あ…あ…」「あ!?はっきり喋れ!!!」「あのっ!リーダー格は…と…隣の…矢島…」震える手で矢島を指先した。「ほぉ…テメェかよ……」矢島はガタガタ震えている。ただでさえ100キロを越えるお父さん。「ふざけんじゃねぇよ!!!」ガァン!!とお父さんは矢島の机を思いきり蹴り倒した。「あ……あ……」震える矢島の頭を鷲掴みにしかがんで目を合わせる。

「お前には親が居ねぇのか?」「は……?はい……?」矢島はガタガタと震えた声で答えた。「居ます…お父さんも…お母さんも…」「その父さんと母さんに大切に 育てられていねぇのか…?」「い!いえ!そんなことはありませ…」「だったらなんで分からねぇ!!」「ヒィィ!!」「自分のこどもが苛めにあっていると 知った時の親の気持ちを想像して見ろ! ふざけてんじゃねぇぞ 俺の悪口なんざどうでもいいんだ! 今度瑠璃を苛めてみろ! どうなるか分かって…」「すみませんでしたぁぁ!!!」矢島は泣き出した…。お父さんはそっと矢島の頭から手を離した…「お…お父さ…」「瑠璃には見せたくなかった…」「え…?」「こんな怖いお父さん見せたら… お父さん…瑠璃に嫌われちゃうと… 思っ…」お父さんは涙を落としながら教室を後にしようとした…「…お騒がせしました…」「…お父さん!!!」走った。お父さんの背中へと。「ありがとう…!ありがとう!!! 本当は辛かった! 学校に行くのが辛かった! ありがとう!!!」「瑠璃……」ワァンと二人抱き合って泣いた…「本来なら…私が気付かなければ いけなかった…この度は 申し訳ありませんでした!」先生はそんな私達に頭を下げた…翌日。家庭に明るさが戻ってきた。お母さんがクラスの女の子のお母さんから苛めの話を聞きお父さんに話したらしい。その足でお父さんは学校に乗り込んだようだった。

「お父さん、矢島がね…」「矢島?あぁあの苛めのか?」「お前の親父 メチャクチャカッコいいなって!! あれ以来仲良しなんだよっ!!」「…そうか」お父さんは嬉しそうに笑った。ハァと彼は溜め息をつく。「大丈夫だよ」私は言う。「だってよ…俺だぜ? 絶対あん時の事覚えてんぜ…?」「頑張って!」ガチャリと家の扉を開けた。お父さんが仁王立ちしていた。ほら、と彼の背を押す。「は!初めまして! ではないんですけど…あの…その… あの時は本当にすみませんでした! 俺本当は瑠璃さんが好きでっ… でもガキだったからどうすればいいか 分からなくてっ…苛める事でしか… 気持ち…表現出来なかっ…」彼は涙ぐんだ。

「矢島君か。」「お…俺の名前…」「あの時にしっかり顔を見たからね。」お父さんは彼に何かを手渡した。それは…クシャクシャの紙切れ。…?彼と二人でそれをそっと開いた。「あの時の借り物競争で拾った紙だよ」お父さん………「君に…渡してもいいんだね?」彼はボロボロ泣いた。「…はい!瑠璃さんは僕が!一生!! 幸せにします!!!」そこには……《世界で一番大切な人》と、書かれてあった……お父さん、本当にありがとう。あなたは私の誇りです。


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