感動するお話 子供が出来ない理由

【ここまで深い愛、葉子の秘密】
「こどもは三人欲しいなぁ! 一人目は女の子であとは男の子!」恋人時代の葉子の口癖だった。「俺が叶えてやるよ」
そう答える私に葉子は照れながら微笑んでいた。私30才、葉子27才であった。私達はめでたく結婚した。若くはないがなんとか頑張れば3人こどもが持てるかな?そう二人で笑って話していた。

しかし…一年経っても二年経っても私達にはこどもが授からなかった。私は一人っ子である。実家の母の強い奨めもあり私達は不妊治療の名医を訪ねた。藤崎先生と言った。とても穏やかで優しそうな先生だった。

「とりあえず検査をしてみましょうか。」そう言われ葉子は検査を、私も精液を提出した。「検査結果は一週間後に 出ますのでまたいらして下さい」

私達は病院を後にした。「原因が分かったら 不妊治療も出来るよね? もう私一人だけでもいい。」葉子は強がった。嘘つけ…あんなに3人欲しいと言っていたじゃないか…。葉子が不憫だっだ。葉子の願いは叶えてやりたい。それに母にも孫は抱かせてやりたい。私はそんな想いから病院を訪れることを決めたのだった。一週間後。本当なら二人で聞きに行くはずだった検査結果だったのだが、どうしても外せない会議が入った。

「すまない、葉子…。 心細いと思うが一人で 聞いてきてもらって 構わないだろうか…。」葉子は微笑んだ。「あなたにはしっかりと 働いてもらわなくっちゃね。 こどもも出来るのよ」本当に…いい女だ。会議が長引いた!「吉崎!飲み行くぞー!」「すみません!今日は 外せない用事があるんです!」私は家へと走った。何を言われたのだろう?葉子は大丈夫だろうか?頭の隅では最悪の事態も考えていた。

「葉子!」家に灯りが付いていない。いないのか??家に上がりリビングの電気を付けた。びっくりした。「よ…葉子!電気も付けないで どうしたんだ!?」目が真っ赤に腫れている。嫌な予感がした。「あなた…」うわぁぁんと葉子は泣いた。「私の…私の子宮には… 卵子が…卵子がないって… こどもは無理だって…こどもは…」私は葉子を抱き締めた。

「すまない… かけてやる言葉が見当たらない… あんなにこどもを 欲しがっていたお前にどうして… どうして…!神様がいるなら 私は殺してやりたい!」気付けば二人で大声で泣き続けていた…。何日かして私達は私の実家に来ていた。孫を楽しみにしていた両親はとても残念がった。そして今度は葉子の実家に事実を伝えにいった。葉子の父親は泣き崩れた。「克彦君…!すまない… 私は君のご両親に 合わせる顔がない!」「お父さん、僕は葉子さんの 人柄に惚れました。 こどもはいなくとも二人で 支え合い生きていきます。 顔を上げて下さい。」葉子も一人っ子だ。葉子のご両親もさぞかし辛かっただろう。帰り道。私は葉子に話した。「葉子、ひとつだけ約束してくれないか」「え?」「私より先に死なないでくれ。」「…はい。」手を繋いで帰った。時は穏やかに流れた。

私51才、葉子48才の時だった。葉子は横断歩道を青信号で横断中脇見運転のトラックにはねられた。即死だった。ばたばたと葬儀をすませ一段落し私は和室で葉子のお骨と二人きりになった。「葉子…」突然すぎて頭が真っ白なままだった。「約束したじゃないか…! 二人で生きていくと! 私より先に死なないでくれと 約束したじゃないか……!」葬儀では必死にこらえていた涙が一気に溢れた。可愛い葉子…優しい葉子…私の大好きな葉子…私は何時間も何時間も泣いた。


その時であった。ピンポンとチャイムが鳴った。葉子の友人が線香でもあげにきてくれたのだと思い私は扉を開けた。初老の男性であった。「あの…どちら様でしょうか」「藤崎と申します。 もうお忘れかと存じますが あなた方夫婦の不妊治療の 担当をさせていただきました。 思い出して頂けたでしょうか?」

「…ああ!」思い出した。「ニュースで事故を知りました。 葉子さんに線香をあげさせて下さい。」なんと慈悲深い方なのだ。たくさん受け持ったであろう患者の一人に過ぎない私達夫婦の事を覚えていてくれていたなんて…。私は感動した。「どうぞあがって下さい!葉子も喜びます」葉子の遺影を前にして藤崎さんは涙した。「どうして…どうしてこんな 愛情深い方がこんな事に…!」嬉しかった。「全くです… 神様なんてきっといないんです。 あんなにこどもを欲しがった葉子の体に 卵子を与えなかったのだから… そしてこの事故死…」

「…やはり奥様はそう言いましたか。」え?「奥様が墓場まで持ち込んだ秘密を 私が暴露してよいものか大変悩みました! これを話してよいものか夜通し考えました! しかし…しかし…奥様があまりに不憫で… 不妊治療に当たって30年、 私はここまで深い愛を 見たことがありません!」藤崎さんはオイオイと泣き出した。

なんだ…?どうやら私の知らない葉子の秘密を知っているらしい。「真実を受け止める勇気はありますか?」「はい。葉子の事ならば 全てを受け止めます。」彼は…衝撃の事実を告げた。「あなた方夫婦に こどもが出来なかった本当の原因は… あなたにあったのです!」え………頭が真っ白になり血の気がサァーっと引いていった…。

「あなたの精液には… 精子が全く存在しませんでした… 無精子症候群です。 奥様の体にはなんの問題もなかった! この事を彼女に告げると彼女は言いました。 この話はここだけの話にして欲しいと。 彼は優しい人だからこの事実を知れば 必ず自分を責める。 私がこどもを欲しがっているのを 誰より知っているから。 今のうちにきちんと男性機能のある人を 見つけ直した方がいいとまで言い兼ねない、 そんな人です。 原因は私にあった。 私に卵子が存在しなかった! そういう事にして下さい! 私達夫婦の事はどうか忘れて下さい! お願いします…お願いします… そう言って奥様は泣き崩れました。 こんなにも深い愛を持った方には 私は生まれて初めて出逢いました! あなた方夫婦の事は 忘れることが出来なかった… だからニュースを見て いてもたっても居られずカルテをあさり ここの住所を見付けたのです。

 あなたは…あなたは世界一の 幸せものです!」葉子……お前…お前…「葉子…!馬鹿野郎!」私は叫んだ。「どうして本当の事を 言ってくれなかったんだ! どうして私にすまないと 謝らせてくれなかったんだ! 男性機能のある人を見つけろだと? 私がそんな事言うわけないじゃないか! お前なしで生きていける訳ないじゃないか! こんな私だけど捨てないでくれと すがっていたよ!葉子…葉子… ありがとう……本当にありがとう……!」神様…殺したいなどと言って申し訳ありませんでした。二つお願いを聞いて下さい。生まれ変わっても葉子と出逢わせて下さい。そして今度こそ私に男性機能を与えて下さい。葉子…!また会おうな!約束する!今度こそ…今度こそ3人のこどもを抱かせてやるぞ!


ありがとうございます。

茶まん


コメント

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

▲トップへ戻る